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3.5億ドル流出と信託譲渡——暗号資産の「保管」を巡る二つの事件が示すもの

2026/9/26Long Drive Editorial

9月25日のWeb3ニュースで最も目を引く数字は、ビットゲットから約3.5億ドル(日本円で500億円超)が不正流出したという事実だ。同時に、暗号資産型ステーブルコイン「JPYdf」を手がけるJADATの全株式が三井住友信託銀行に譲渡されるという発表もあった。一見無関係なこの二件は、暗号資産における「保管」の意味が根本から問われていることを示している。

取引所に預けるリスクはなぜ消えないのか

ビットゲットの流出は、2014年のマウントゴックス(約85万BTC喪失)、2018年のコインチェック(約580億円)と並ぶ規模だ。取引所は便利だが、秘密鍵をユーザーが持たない限り、資産の実質的な管理責任はプラットフォーム側にある。ビットゲットは過去にも2018年に約60億円相当を流出させており、今回で二度目となる。

「取引所はハッキングされるもの」という前提に立てば、対策は二つしかない。一つは資産を自分で保管するセルフカストディ。もう一つは、伝統金融の信託スキームに資産管理を委ねる方法だ。後者の動きが、JADATの株式譲渡である。

信託銀行が暗号資産に関わる意味

JADATが発行する「JPYdf」は、日本円に連動するステーブルコインだ。その全株式が三井住友信託銀行に譲渡されるということは、発行体のガバナンスが銀行の管理下に入ることを意味する。信託銀行は、顧客資産を自己勘定と分離して管理する専門機関だ。暗号資産の世界にこの仕組みが持ち込まれると、ユーザーは「発行体が倒産しても資産が保護される」という保証を得やすくなる。

ただし、ここで注意すべきは、信託による保護はあくまで「法定通貨建ての価値」や「発行体の信用」に対するもので、ブロックチェーン上のデータそのものの永続性を保証するものではないという点だ。

データの「保管」と「永続」は別問題

暗号資産の文脈で語られる保管は、多くの場合「いつでも換金できる状態を保つこと」を指す。しかし、ブロックチェーンに関わるデータ——取引履歴、スマートコントラクトのコード、NFTのメタデータ——は、一度失われたら復元できない。ここで問われるのは「保管」ではなく「永続保存」だ。

従来のクラウドストレージは、月額課金が続く限りデータを保持する。だが、サービス終了や契約打ち切り、あるいは支払い遅延が生じれば、データは削除される。実際、2016年にサービスを終了した「Symform」や、2023年に終了を発表した「Google Domains」のように、企業の都合でユーザーデータが失われる例は後を絶たない。

これに対し、Arweaveのようなブロックチェーン基盤のストレージは、事前に支払った料金で半永久的にデータを保存する設計を採る。超算国際(香港)が運営するLong Driveも、このArweaveの仕組みを利用し、アップロードしたデータが消えないことを前提にしている。クライアント側でAES-256-GCM暗号化を施せば、暗号化鍵を知るユーザー以外は内容を読めない。

二つのニュースが示す共通の教訓

ビットゲットの流出とJADATの信託譲渡は、どちらも「誰が、何を、どうやって守るか」という問いへの異なる答えだ。取引所はハッキングリスクを完全には排除できない。信託は法制度の枠組みで資産を守るが、ブロックチェーン上のデータそのものの永続性は別の技術的保証を必要とする。

暗号資産を保有する人は、価格や利回りだけでなく、その資産に関わるデータがどこに、どのような条件で保存されているかを確認する必要がある。取引履歴や契約記録が失われれば、資産の所有を証明することすら難しくなるからだ。

3.5億ドルという数字は、保管の失敗がどれほど大きな損害をもたらすかを示している。同時に、信託という伝統的な仕組みが暗号資産の世界に取り込まれる動きは、業界が「保管」の質を高めようとしている証拠でもある。データの長期保存もまた、同じ延長線上にある問題だ。消えないストレージを選ぶことは、資産を守る行為と本質的に変わらない。